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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(オ)1110号 判決 1986年7月15日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山根晃の上告理由第一について

不動産の譲渡担保権者がその不動産に設定された先順位の抵当権又は根抵当権の被担保債権を代位弁済したことによつて取得する求償債権は、譲渡担保設定契約に特段の定めのない限り、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないと解するのが相当である。けだし、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲については、強行法規又は公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ、第三者に対する関係においても、抵当権に関する民法三七四条又は根抵当権に関する同法三九八条ノ三の規定に準ずる制約を受けないものと解すべきであるが、抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の負担のある不動産に譲渡担保権の設定を受けた債権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によつて担保される債権額を控除した価額についてのみ優先弁済権を有するにすぎず、そのような地位に立つことを承認し、右価額を引き当てにして譲渡担保権の設定を受けたのであるから、先順位の抵当債務を弁済し、これによつて取得すべき求償債権をも当然に譲渡担保の被担保債権に含ませることまでは予定していないのが譲渡担保設定当事者の通常の意思であると解されるからである。もとより、かかる譲渡担保権者は、先順位の抵当債務を弁済するにつき正当な利益を有するものというべきであるから、代位弁済によつて求償権を取得するとともに、先順位抵当権者の債権及び抵当権について代位することはいうまでもないが(民法五〇〇条)、右求償権は代位によつて取得する抵当権によつて優先弁済を受けられるのであつて、求償権者としての利益はこれによつて十分保護されるというべきである。また、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は、目的物の物としての価値の減損を防ぐための費用ではなく、むしろ譲渡担保権者自身の担保権を保全するための出捐とみられるのであつて、これを担保物の保存の費用と解するのは相当でない。この点について原審は、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は担保物の保存の費用に該当するが、設定契約に特段の定めのない限り、右費用は譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないとしているのであつて、右弁済のための費用を担保物の保存の費用とした点は失当たるを免れないけれども、叙上と同旨の結論は正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二及び第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することがてき、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島 敦 裁判官 坂上寿夫)

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